Technology

ヒート&クール成形

WHAT IS HEAT&COOL INJECTION MOLDING ?

20 世紀半ばに石油社会が到来したことと同じ歩みで、プラスチックは私たちの社会に急速に広がってきました。
それと同時にセラミックはその活躍の場を失い、プラスチックにそのポジションを明け渡しています。
プラスチックの特徴として、「低コスト」「量産性」「加工容易性」などが挙げられますが、社会のニーズが高度・複雑化するに従い、外観面の品質向上に開発されたのが『ヒート&クール成形』です。
英語圏ではHeat & Cool Injection Molding よりも Variotherm と表記されることもあるようです。

MECHANISM

ヒート&クール成形の成形原理は以下の通りになります。
射出時に熱媒体によって金型温度を急速に加熱することで樹脂流動を高め、樹脂充填後に冷却媒体で金型温度を急速に冷却し樹脂の固化を促進 することで、型から製品を離形します。

このヒート&クール成形を行うにあたっては、いくつかの方式があります。
例えば蒸気と水を使って温度制御する「蒸気式」、加圧熱水と水による「温水式」、加熱オイルと水を使った「オイル式」や、金型に電気を流し 加熱する「電磁誘導式」など、金型内の温度制御を行うには、様々な方法が用いられています。

ADVANTAGES

先に挙げた通り、ヒート&クール成形は、表面の美観性向上を目的に開発されたため、当然ながらこの表面美観が最大の特徴になります。
もう少し専門的にヒート&クール成形の特徴を説明しますと、ヒート&クール成形では金型内の表面温度が樹脂の熱変形温度近傍に保てるので、 型内の樹脂が冷えないことで下記の効果が得られます。

ウェルドレス

ウェルドは射出された樹脂が型内で分岐し再度合流した部分で、お互いの先端部が溶け合わないことにより発生します。ヒート&クール成形 では射出から保圧の間、金型表面温度が熱変形温度近傍に保たれていることで樹脂の合流部が溶け合うことと、保圧により金型表面に押付け られることでウェルドは見えなくすることができます。

高い転写性

これはシボの転写性が良いことなどで活用されています。
金型の鏡面部(平滑面)をプラスチック表面に忠実転写することで、高光沢な製品外観が得られます。
また、後述するように微細成形も特徴となります。

RHCM

WHAT is RHCM?

ヒート&クール成形は、開発した各社により固有の名称で呼ばれることが多いようです。
タクセルでは『蒸気方式』を取り入れたヒート&クール成形を独自開発しました。短いサイクルで温度の高低を繰り返すことから、当社では「高 速ヒートサイクル成形(Rapid Heat Cycle Molding)」(略して RHCM)と呼んでいます。
特徴は金型温度を急速に加熱し、樹脂充填後に金型温度を急速に冷却できる技術で、金型の表面温度を上げて射出成形することで樹脂の圧力伝 達を向上させて型表面への転写性が向上できます。

尚、RHCM を実現するユニットは、松井製作所が製造し、販売も行っています。

SOLUTION

ヒート&クール成形により、ウェルドレスや高い転写性が可能になります。こうした機能はプラスチック製品に活かされています。 
RHCM 技術においても、従来のプラスチック製品とは異なる一つ上のレベルのソリューションを生み出しています。

表面美観性

ヒート&クール成形の最もわかりやすい特徴が表面の美観性です。
RHCM 技術により、プラスチック表面の光沢は一気に向上します。材料にガラスが入っている場合でも、フィラーが表面に露出しない、などの特徴もあります。
こうした特徴を活かし「塗装レス」での活用も行われてきました。これは環境負荷低減の観点からも注目されています。
過去は家庭用ゲーム機、また現在でも自動車内製部品などで活用されています。

ソリューション
反り低減

2系統を別々に温度コントロールが可能で、これにより反り低減の効果が出ます。
平面性を求められるwork、嵌合精度が求められるworkなどで活用されています。

透明品の透明度向上

金型の鏡面部(平滑面)をプラスチック表面に忠実転写することで、クリアーで高光沢な製品外観が得られます。
これは自動車内製部品など、映像機器の部品として活用されています。

微細成形

高い転写性を活かして、ナノレベルのパターンを成形転写することができます。
タクセルでは、この微細成形の機能を医療機器部品成形に展開しています。例えば当社のマイクロニードルでは、800μmの針長のニードルを成形することができます。
また、微細転写によりAG・AR等の反射防止構造の転写も可能になります。
微細成形はプラスチック活用の新たな可能性を広げるといえます。

POTENTIAL OF RHCM

プラスチックは金属や繊維やガラスなどと共に、製品物を形成する素材です。
この中でプラスチックは最も歴史の浅い材質ですが、20 世紀半ばからは金属や繊維・ガラスの代替としてその領域を広げてきました。
一方で、 長い歴史を持つ金属・繊維・ガラスに置き換えられないものも多数あることも事実です。しかし、エンジニアリングプラスチックの登場などで、 プラスチックの領域は更に拡大しています。こうしたプラスチック領域の拡大に、製造技術面からの挑戦と位置づけられるのがヒート&クール成形になります。

特に先に挙げた「微細成形」は、当社では医療分野・理化学系分野でのニーズが高まっています。
これは従来とは全くレベルの異なるナノレベルまでの微細な成形が可能で、従来の成形では転写不可能だった機能を付加させるとで樹脂による問題解決を実現しているといえます。 当社の樹脂製マイクロニードルは現時点で広く普及している金属針の代替となるものです。金属針では現時点の量産品は最も短いもので3mm程度の長さになりますが、 当社では 1mm 以下の成形が可能になります。

また医療及び理化学系分野で使用される検査・解析プレートはこれまでガラスが多用されてきました。
当社ではマイクロ流路技術を活用したこれらのプレートを、ヒート&クール成形の微細成形技術で具現化しています。 金属にもガラスにもそれぞれの良さがありますが、プラスチックにはもともと量産性という大きな特徴があります。これに加えてエンジニアリングプラスチックなど材料面からのイノベーション、ヒート&クール成形といった製造技術面でのイノベーションにより、プラスチックの可能性はこれからも大きく広がると考えられています。